科学技術のイノベーションが上海のシンボルに

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7月7日、中国共産党上海市第12期市委員会第7回全体会議が開催されました。今回の会議の精神に基づき、上海市は「5つのセンター」および社会主義現代化を建設するために、科学技術イノベーションの主導的役割を一層重視して行く方針を明確にしました。また、先端分野の科学技術における主導権をいち早く握り、国家の戦略的な科学技術力を強化し、高リスク・高付加価値の基礎研究を深め、最先端技術や破壊的技術の分野における戦略的配置と育成を進めることが打ち出されました。

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上海陸家嘴(写真・澎湃新聞)

科学技術の自主自立は、国家繁栄の礎であり、安全保障の要です。中国の科学技術イノベーションの戦略マップにおいて、上海は特別な時代的使命を担っています。

責任と使命

上海市の科学技術ノベーションの取組みは、全国的にも常に中国共産党と国家の全体的な活動の中で計画・運営されてきました。

2014年から2025年にかけての十数年間、上海市は国際的な科学技術ノベーションセンターの建設を持続的に推し進め、重要な成果を挙げ、「基盤整備」から「枠組み構築」、そして「機能強化」へと飛躍的な発展を遂げています。

2024年には、上海市の全社会における研究開発費(R&D)支出は市のGDPの4.4%に相当し、そのうち基礎研究への投資はR&D支出全体の約11%を占めました。国産大型旅客機や国産大型クルーズ船などの国家的重要プロジェクトが運用に投入され、いくつかのボトルネック技術でも重大なブレークスルーが実現されました。

今年の政府活動報告によると、2024年時点で上海のハイテク企業は2万5000社に達し、集積回路・バイオ医薬・人工知能の3大先導産業の規模は1兆8000億元に達し、上海市のGDPの3分の1を占め、上海市が中国国内で初めて経済規模が5兆元を超える都市となる原動力となりました。世界レベルの産業クラスターの形成が加速する中、上海の国際科学技術ノベーションセンターの建設は新たな出発点に立っています。

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上海「模速空間」大模型創新生態社区(Shanghai Foundation Model Innovation Center、SMC)(写真・李佳蔚/澎湃新聞)

上海市は中国の戦略的科学技術力を強化し、ハイリスク・高付加価値な基礎研究を深め、先端技術および破壊的技術の配置と育成を強化します。現在、上海市は「イノベーション型」の中小企業から「専精特新」(特化・高度化・独自技術・革新性)を備えた中小企業、そして、いわゆる「小さな巨人」型の中小企業、というと段階的な育成システムを構築中であり、100億元レベル、さらには1000億元レベルの科学技術リーディング企業の育成も進めています。胡潤研究院が発表した「2024年グローバル・ユニコーン企業・ランキング」によれば、上海から65社がランクインし、中国で第2位となっています。上海市には、一流のイノベーションエコシステムと産業エコシステムを構築し、モデルとなることが求められています。

今回の全体会議では、「上海は国家のために尖兵として奮戦するという使命感・責任感・緊迫感を真に高め、国家戦略の実行、国家利益の維持、国家安全の保障という視点から、科学技術ノベーションを計画・推進し、ハイレベルの科学技術による自主自立をよりよく支え、『科学技術強国』建設にさらに大きく貢献すること」が求められています。

イノベーションの効率性

現在、科学技術ノベーションは日進月歩であり、多くの分野において「ウィンドウ期(好機)」が瞬く間に過ぎ去ってしまいます。このため、上海市は戦略的機動性を維持しつつ長期主義を堅持し、最先端分野の科学技術の主導的地位をいち早く確保することとともに、イノベーション効率の向上も明確に打ち出しました。

上海市の16の行政区においては、各区の資源・機能・位置づけがそれぞれ異なるため、科学技術ノベーションの推進には重点を絞り込んだアプローチが必要です。科学技術ノベーションは地域の特性に応じて、資源条件、産業基盤、研究体制に基づいて、優位性のある分野に注力することが求められています。

最近、閔行区がブレイン・マシン・インターフェース(BMI)産業の発展を加速させる一連の施策を打ち出しました。6月29日には、閔行区で上海ブレイン・マシン・インターフェース未来産業集積区「脳智天地」の建設が正式に着工しました。「脳智天地」には、ブレイン・マシン・インターフェースのイノベーション資源の集積と、国際的な影響力を持つ未来産業クラスターの育成が期待されています。

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上海で着工した、多くの企業が入居予定の中国初のブレイン・マシン・インターフェース未来産業集積区「脳智天地」(写真・澎湃新聞)

2025年1月、上海市は「上海市ブレイン・マシン・インターフェース未来産業育成行動案(2025–2030)」を発表し、製品開発と臨床試験を加速しています。現在、閔行区では半侵襲型などの分野においてすでにイノベーションの成果やスタートアップ企業が次々と現れています。上海市が整備した重点実験室や公共サービスプラットフォームを活用して、ブレイン・マシン・インターフェースのイノベーションの源泉地づくりがさらに進められています。

近年、閔行区は「一南一北」発展戦略のもと、「大零号湾(グランドネオベイ)」科学技術核心策源機能ゾーンを中心として、科学・技術・イノベーションが地域の血脈に融合しています。2024年には、閔行区の経済規模が初めて4000億元を突破し、新たなステージに入りました。区全体の研究開発費の投入は266億1800万元で、区GDPの8.87%に達し、上海市の区の中でトップとなりました。

松江区は、上海市における工業と対外貿易の中心的な区であり、科学技術ノベーションと産業イノベーションの統合的推進を目指し、先進的製造業の集積地および新たな質の生産力の先行地としての構築を目指しています。全体会議では特に、長三角G60科学技術イノベーション回廊の質の向上が強調されました。G60科学技術イノベーション回廊は、上海市松江区を起点とし、国家戦略の重要な構成要素として進化しています。2025年6月には、G60の9市連席会議が初めて持ち回り方式で開催され、杭州市で重要な科学技術プラットフォーム連盟、企業の海外進出支援連盟、低空経済の協同イノベーション連盟が設立され、良好な効果を収めました。

6月27日には、金山区においてレクサスの新エネルギー車プロジェクトが着工し、スマートコネクテッド新エネルギー車産業の新たな章が開かれました。このプロジェクトは2026年8月の竣工、2027年の生産開始を予定しており、年間生産能力は10万台に達する見込みです。金山区は中国の7大化学工業基地の1つであり、比較的完備された化学産業チェーンを有し、総生産額は約1700億元に達しています。近年では従来の化学工業の発展と並行して、新エネルギー車、低空経済、バイオ製造などの新興産業の育成にも力を入れています。

基本的なロジック

注目すべきは、上海が科学技術イノベーションの発展において改めて「基本的なロジック」の重要性を強調している点です。全体会議では、「科学技術ノベーションの基本的なロジックと内在的なメカニズムを深く理解し、技術進化の動向や技術ロードマップ、イノベーションモデルの変化を綿密に追跡することで、イノベーション創出とハイエンド産業牽引の機能を緊密に結び付け、機先を掴んで主導権を握る」ことが強調されました。

上海が科学技術ノベーションの基本的なロジックと内在的なメカニズムを重視するのは、正しい方向を見極めて空振りを避け、科学技術発展のイニシアティブを保持するためです。

低炭素への転換はすでに世界的なコンセンサスであり、グリーン海運(環境配慮型海運)は時代の流れです。現在、上海港ではグリーンエネルギー供給センターの建設が進められています。2025年3月、洋山第4期自動化埠頭において、上港集団能源公司傘下のメタノール供給船が、韓国の「HMM Green」号に対して約2900トンの国産グリーンメタノールの補給を実施しました。これは、上海港において国産グリーンメタノールの初の大量補給が実現したことを意味します。

これは、上海港がグリーンメタノール燃料の「貯蔵・輸送・供給」の完全な供給チェーン能力を構築したことを示しています。しかし、今後は補給業務の拡大に伴い、上海港にはコスト・認証・産業チェーンの体系化といった課題の解決が求められています。

かつて、上海の科学技術イノベーションは、成果の実用化が滞り、効率が低いという弱点がありましたが、その状況は改善されつつあります。

2024年、華東師範大学は全国で初めて科学技術成果の全所有権を研究者に付与する制度を実施しました。ここでは、研究成果を評価額として出資する場合、形成された株式を研究者が全て保有できる仕組みを導入しました。成果の実用化で企業が良好に成長した際には総額の30%を大学に支払い、逆に企業の経営が不調の際には、特許を返還して債務と相殺可能とすることで、研究者の起業に対するプレッシャーを大きく軽減できます。この制度の導入によって、同大学における科学技術成果の実用化金額(ライセンス許諾・譲渡・出資など)は、2023年の708万元から2024年には4億7600万元へと大幅に増加しました。

今回の全体会議では、上海市が起業家人材の育成を強化することも明確にされました。会議に出席した市委員会委員からは、「大学や研究機関において起業家マインドの育成を重視すること、また、ベンチャーキャピタルや起業メンターの導入をすすめることで、学生の研究能力向上とともに起業意欲の喚起を図り、起業家チームの形成やマッチングプラットフォームの構築を支援する」ことが提言されました。

出典:澎湃新聞

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