建築を読み取る――番禺路にあるラズロ・ヒューデックの邸宅を探る
長寧区のプラタナス並木の奥まったところに佇む旧式洋館。その一つひとつのレンガには、歳月の積み重ねが刻まれています。このほど、長寧区は「長寧・建築を読み取る」コラムを開設し、建築の様式や美学をひも解きながら、その背後にある時代の変遷と人々の暮らしを読み解いています。今回は、番禺路にある巨匠建築家ラズロ・ヒューデック(Laszlo.Hudec)の自邸を訪ね、彼が提唱した「応用芸術(applied art)」の理念に迫ります。
1920年代半ば、上海に滞在していたスロバキア系ハンガリー人建築家、ラズロ・ヒューデックは、家族宛の手紙の中で、自身の建築観を象徴する言葉を残しました。一つは、「建築士にとってのアプライドアートとは、外に現れる姿が内面の結果であること」という建築と自己の関係についてのもので、もう一つは、「建築は必ずしも新しいものを生み出す必要はない。新しい環境、新しい課題、新しい材料が、自ずと新たな解決策を生み出すから」という創造の本質についてのものです。
ここでいう「アプライドアート(応用芸術)」とは、「応用」を基盤に、技術・材料・構造と居住者の生活世界を有機的に統合する考え方です。ヒューデックの建築作品を見ると、彼は伝統的な様式を尊重しつつも、常に最先端の材料と技術を取り入れていました。建築を単なる芸術や工学としてではなく、実際の生活ニーズに応える創造的な実践として捉えていたのです。
この思想は、当時の主要な建築思想の要素を融合したものとも言えます。アーツ・アンド・クラフツ運動のように手工芸の価値を尊重しつつも、工業技術や新素材を排除することはありませんでした。また、当時の美術と建築に関する総合的な教育機関であるバウハウスが機能主義を重視したのに対し、彼は伝統様式がもたらす情緒的価値にも十分な意義を見出していました。
アーツ・アンド・クラフツ運動は19世紀後半にイギリスで興ったデザイン改革運動です。工業化による製品の品質低下や美的価値の低下への強い評判を背景に、伝統的な手工芸の復興を提唱し、素材そのものの美しさと職人の個人的価値を重視しました。
ヒューデックが上海滞在中に住んだ家、現在の長寧区番禺路129号(写真・VCG)
ヒューデックの理念は、その当時上海での自邸(現在の長寧区番禺路129号)の設計にも明確に表れています。建物は、妻ギゼラ・マイヤー(Gisella Meyer)の好みに合わせたチューダー・リバイバル様式、いわゆるイギリス田園風のスタイルを採用しています。レンガと木造を基調とし、外観的には装飾的な木組みを保ちつつ、上海の地盤や気候条件に対応するため、屋根架構の主要な荷重部には鉄骨構造を導入しています。さらに、浴室の床には鉄筋コンクリートを使用し、屋根裏や急勾配部分には近代的な軽量木造を採用しています。このように、ヒューデックは、居住者の嗜好に応えるだけではなく、最先端の技術や合理的な手法によってそれを最も効率的に実現している点が特徴です。
こうした理念は、彼の家庭環境と成長過程とも深く関係しています。ヒューデックは知識人家庭に生まれ、母は貴族出身で牧師の娘、父は地元で名の知られた建築請負業者でした。母からは人文的素養を、父からは実務的な技術を学び、理性と感性を併せ持つ人物として育ちました。
ヒューデックは幼少期から卓越した建築の才能と実践能力を示していました。9歳の頃から父親のもとで建築現場で働き始め、12歳に会社の従業員となり、青年期にはすでに左官職人、石工、大工の3つの職業資格を取得していました。その後、青年のヒューデックはブダペスト王立ヨーゼフ工科大学(現ブダペスト工科経済大学)に進学し、体系的に建築学を学びました。当時の建築教育は、建築を「総合芸術」として捉えることを重視しており、建築は単なる構造工学にとどまらず、空間芸術であり、生活芸術でもあるとされていました。こうした家庭教育、自身の実務経験、そして体系的な学問の積み重ねにより、ヒューデックは職人としての技能と学術的素養、理性的な論理と文化的感性を兼ね備えるに至りました。
ヒューデックが上海滞在中に住んだ家、現在の長寧区番禺路129号(写真・VCG)
この視点からヒューデックの建築を見直すと、その価値は単なる「万国建築の鑑賞性」にとどまらず、むしろ一貫している「応用芸術」という思想にあります。チューダー・リバイバル様式の住宅であれ、モダニズム志向のオフィスであれ、その根底には共通の論理があります。すなわち、「応用」を基盤に、「技術」を支えとし、「生活」を中心に据えるという考え方です。
技術革新が加速し、デザインの流行が目まぐるしく変化する現在においても、ヒューデックの「応用芸術」は重要な示唆を与えてくれています。建築の本質は、新奇な形態を追求することではなく、具体的な生活のニーズ、立地条件、そして技術的可能性に応えることにあります。真の建築家とは、様式を生み出す者ではなく暮らしを支える者であり、形式を発明する者ではなく技術を応用する者であり、流行を先導する者ではなく意味を構築する者なのです。
出典:WeChat公式アカウント「上海長寧」