滝瀬ももえ 上海と20年続く絆、絵筆で風景と人情を記録
(写真・新民晩報)
滝瀬ももえ(日本)
グラフィックデザイナー
国慶節の休暇が終わり、ももえさんはWeChatのモーメンツに新作を投稿しました。それは、富民路にある小さなお店「囍方」のために描いた水彩画で、キャプションには「『囍方』上海?私は超『囍方』上海!(上海が好き?私は上海が大好き)」という言葉遊びを交えたメッセージが添えられていました。上海で20年以上生活しているこの東京の女の子は、すでに「半分上海人」となっており、中国式のユーモアに通じているだけでなく、絵筆で上海の小さなお店を100軒以上描いてきました。
ももえさんと上海の縁は1993年に遡ります。当時、東京で高校生だったももえさんのクラスに上海からの留学生が転校してきました。同じ年頃の2人の少女はすぐに打ち解け、上海の食べものの美味しさや景色の素晴らしさを聴いているうちに、ももえさんは上海とはどのようなところか、大きな憧れと好奇心を持つようになりました。翌年、彼女は上海に飛び、そこからこの「魔都」上海との深い縁が始まったのです。
大学時代、彼女は上海師範大学で1年間交換留学生として過ごし、2003年には上海への移住を選びました。勉強、仕事、生活が同時進行しているのが彼女の日常です。現在も、上海工程技術大学国際教育学院で学びながら、中国文化を楽しんでいます。
小さな店の風景と人情
初めてももえさんに会った人は、彼女を上海育ちの人と間違えるかもしれません。それは、同じアジア人としての見掛けだけでなく、彼女が地元のとっておきの小さなお店を詳しく教えてくれるからです。
滝瀬ももえ(写真・新民晩報)
街を歩き、小さなお店を覗き、絵筆で街の日常風景を記録することが、彼女の余暇の最大の楽しみです。絵を描く理由は、食べ物が美味しいとか、店がきれいとか、その時のその場の雰囲気が良かったからかもしれません。いずれにせよ、「一目惚れ、一期一会」の気持ちを留めるためなのです。彼女の名前の「ももえ」の中国語訳は百絵ですが、気が付かないうちに、彼女は自分の名前を実現するかのように、上海の小さなお店を水彩画で描き、その数は100枚を超えています。
彼女が好んで描くのは路地裏の小さな店です。寧波路にある「大眼包子」は、彼女が前職の時に足しげく通っていた朝食店です。時間の痕跡が残るレンガ造りの建物の1階にある小さな店で、近くには高層ビルが立ち並び、観光客で賑わう南京東路がありますが、彼女は市井の雰囲気が濃い寧波路に入り込んで、熱々の蒸しパンを買うのが好きなのです。ももえさんは「このお店は『ネットで有名な店』ではないんですが、蒸しパンは美味しくて値段も手頃で、店の主人もとても親切です。人々の生活と密着したこうした店は、私にとって、すごく魅力的なんです」と話します。
時が経つにつれて、彼女のお気に入りの店が移転したり、閉店したりすることがありますが、そのたびに、ももえさんは残念に思うと同時に良かったとも感じます。それは、もうその店を訪れることはできないものの、自分の画集にはかつての美しい時間が残されているからです。
絵の中の街並みだけでなく、絵の外の人々の温かさも思い出す価値があります。陝西南路にある昔ながらのかき氷と炒り栗を売る夫婦の店は、かなりの人気がありますが、ももえさんの絵には、この街の味わいも残されています。彼女はその絵をカレンダーにして、店の夫婦に贈りました。帰り際、彼女の手には新しい友人からの贈り物の甘くて柔らかい炒り栗がありました。
上海の街角に残る時間の跡と創造的活力
上海は古さと新しさが共存する国際的な大都会。(写真・新民晩報)
ももえさんにとって、上海は古さと新しさが共存する国際的な大都会です。近代的な高層ビルが立ち並ぶ一方で、歴史が息づく街並みや素朴な路地裏の小さな店も多くあります。彼女は創作する時に、時の痕跡が残る赤レンガの建物や、日よけの傘を広げた街角の果物店、涼しげな昔ながらの上海のかき氷などに目を引かれることが多いです。これらの活気のある街の風景は、大都会の生活に親しみとくつろぎを添えています。
散歩と絵を描くことは、ももえさんにとって都会での宝探しのようなものです。その過程で、彼女は南陽路の住宅街に、わずか2㎡の小さなウインドウショップである上海初のmannerコーヒーの店を発見しました。また、「愛の神話」のロケ地となった延慶路の古風で温かみのある大福雑貨店も訪れ、南蘇州路にあった旧中国紡績建設公司第五倉庫が、レトロな工業スタイルの「朝はコーヒー、夜はお酒」の店に生まれ変わるのを目の当たりにしました。
「上海は本当に不思議に満ちた街で、初めて来た30年前とは全く違います」とももえさんは言います。また、上海は世界のデジタル化の最先端にあり、スマホを持つだけで外出でき、道ばたには自由に使えるシェア自転車があります。古い洋館は修復され、トレンディなスポットがあちこちに出現し、多様な商業文化がここで絡み合っています。彼女は大きなショッピングモールに買い物にアクセスすることも、街角の小さな店を散策することもでき、市場で地元の人のように値段交渉をすることも楽しんでいます。「これは東京では体験できないことで、このように寛容で、オープンな国際都市は本当に魅力的です」。
ももえさんは自分の水彩画を文化クリエイティブ商品にしました。(写真・新民晩報)
20年以上も上海で働き、生活してきたももえさんは、この都市と深い絆を築いてきました。彼女は日本の漫画の少女のような口調で、「一歩歩くごとに、足元からピンク色のハートが湧き出てくるような気がするんです」と、上海の街を歩くときの気持ちを語りました。少し前、ももえさんは個展とチャリティー・セールを開催しました。彼女は自分の水彩画をカレンダー、マグカップ、ポストカード、ファイルなどの文化クリエイティブ商品にして、それらをお客さんに販売し、集まったお金を希望小学校の子供たちに寄付しました。「魔都」上海で生活し、街を歩きながら、彼女はこれからも絵筆で身の回りの日常風景や上海の生活を記録し続けていくつもりです。
情報源:新民晩報